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August 1782009

 ジャンケンの無口な石が夕焼ける

                           西本 愛

焼けの情感を描いて、革新的な句だ。大正期の有名な童謡に「ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む ぎんぎんぎらぎら 日が沈む」ではじまる「夕日」(葛原しげる作詞)がある。この歌を紹介する絵本などの絵の構図は、例外なく大夕焼けをバックにして遊ぶ子供たちの小さなシルエットが浮かんでいるというものである。歌詞の内容がそうなのだから、そのように描いてあるとも言えるのだけれど、この構図が示しているのは、もっと深いところで私たち日本人の美意識につながっているそれなのだと思う。大自然の前の点景としての人間は、自然の永遠性と人間存在のはかなさを物語っているのであり、この構図を受け入れるときに、束の間にせよ、私たちの情感は安定する。島崎藤村ではないが、「この命なにをあくせく」と、自然に拝跪する心が生まれてくる。掲句を革新的と言うのは、句がそのような予定調和的な情緒安定感を意識的に破ろうとしているからだ。子供らのシルエットをぐいっと精度の高い望遠レンズでたぐり寄せたような構図が、作者の従来の情緒に落ちない意思を明示している。ここで昔ながらの美の遠近法はいわば逆転しているわけで、人間中心の美意識が芽生えている。と、ここまではひとつの理屈にすぎないけれど、たかが「ジャンケンの石」に夕焼けを反映させてみせただけで、いままでには無かった夕焼けの情感が生まれていることに、私は覚醒させられたのだった。『現代俳句歳時記・夏』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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