November 292009
唇で冊子かへすやふゆごもり
建部涼袋
今週も江戸期の俳句です。冊子は「さうし」とフリガナがあります。つまりは本のことです。この句、読めば誰しも微笑まずにはいられません。ああこういうことってあるな、と古い人ならたいてい思いあたります。コタツにでも入っているのでしょうか。手は布団の中で温められている最中であり、よっぽどのことがない限り、冷たい外気などへはさらしたくありません。でも弱ったことに、読んでいる本のページをめくらなければなりません。さあどうしよう、ということでコタツから出ているもので動くものならなんでも使えということで、急きょ唇が動員されたというわけです。まあ、自分の体ですから、どこをどう使おうと勝手といえば勝手ですが、たしかにだらしない姿です。読んでいる本の内容も、自ずと知れてくるというもので、少なくとも精神を高めるようなものではないようです。最後に置かれた「ふゆごもり」という季語が、なんとも大げさで、さらに笑いを誘います。『日本名句集成』(1992・學燈社)所載。(松下育男)
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