December 052009
落日の中より湧いて鶴となる
坂口麻呂
作者は鹿児島在住であった。この句は、鶴の渡来で名高い、出水(いずみ)での一句。鶴が渡ってくると、当地を何回も訪れていた。この日は、昼間どこかに遊びに行った鶴が戻ってくるのを夕方待っていたのだという。西の空をひたすら見つめているうち日も暮れかかり、大きな夕日が沈んでゆく。そろそろかなと思ったその時、赤くゆらめく太陽に、わずかな黒い点点が見えたかと思うと、思いがけないほどの速さで、それらが鶴となって作者に向かって飛来して来たのだ。落日、の一語が、深い日の色と広い空、さらにふりしぼるような鶴唳をも感じさせる。自然の声を聞くために、毎日40分の散歩を欠かさなかったという作者だが、この秋、突然亡くなられた。この句は、南日本新聞の南日俳壇賞受賞句(2003.4.18付)。あっと目を引くというのではないけれど、しっかりとした視線と表現が魅力的な、南日俳壇常連投句作家で、私はファンの一人だった。どちらかというと出不精で、鶴の飛来はもちろん、あれもこれも知らないことの多すぎる自分を反省しつつ、合掌。(今井肖子)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|