December 062009
降るをさへわするる雪のしづかさよ
藤森素檗
横浜では、冬になったからといって毎年必ず雪が降るというものではありません。通勤準備をする朝に、天気予報のテレビ画面の雪ダルマの絵を見ながら、ああもう北海道には雪が降っているのだなと、うっとりと風景を想像するくらいなものです。来る日も来る日も、乾ききった関東の空の下を、遠くを見つめながら電車に乗っているだけです。そのせいかどうか、雪のやっかいな面はなかなか意識にはのぼらず、きれいなところだけに目が向いてしまいます。雨と対比して、心がより雪のほうに傾くのは、見た目の美しさや、触れたときの感触だけではなく、音の大小にも関係があるのかもしれません。今日の句も、小細工することなく、正面から雪の音を詠んでいます。降っているのを忘れてしまうのは、もちろん降られているヒトのほうですが、おそらく雪自身も、同じように忘れているのです。『日本名句集成』(1992・學燈社)所載。(松下育男)
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