ユ達Y句

December 17122009

 毛糸編む母の周りに集まりぬ

                           後閑達雄

車の座席や病院の待合室で編みかけのものを袋から取り出してせっせと編み針を動かす姿をこの頃はとんと見かけなくなってしまった。今迄毛糸編みに見向きもしなかった女の子が編み針と毛糸を購入してマフラーを編み始めたらボーイフレンドが出来たものと相場が決まっていたが、この頃はどうなのだろう。昔のお母さんは古くなったチョッキやセーターをほどいた毛糸を蒸気でのばし、違うものに再生させていた。せっせと編み針を動かすお母さんのまわりに子供たちが集まって、学校のこと、友達のことなどしきりに話しかける。お母さんはふんふんと頷きながら手は休ませない。手編みのせーターもあまり着ることのなくなった昨今、このような牧歌的風景は少なくなったことだろう。だからこそ昔はありふれていたこんな光景が懐かしい。ゆったり流れる冬の夜の時間。母を囲んで丸く集まった家族の温もりが毛糸の暖かさをともに伝わってくる句である。『卵』(2009)所収。(三宅やよい)




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