December 202009
一年早く辞める話も出て熱燗
柏倉ただを
この句を読んで感慨にふけってしまったのは、わたしの個人的な理由によるものなのかもしれません。というのも、今年でわたしは59歳になり、あと一年で定年を迎えることになっています。「一年早く」というのは、定年を迎えようとするその一年前ということなので、まさにわたしの年齢を指しています。この厳しい経済状況の中で、定年近くの勤め人は、多かれ少なかれ会社の中でつらい立場に追い込まれています。この句の人は、早期退職を勧められでもしているのでしょうか。あるいは、わたしの同僚にも何人かいましたが、30年以上も働き続けてきたものの、あと一年がどうにも辛抱がならず、みずから辞めてゆくということもあるようです。ゴールが見えてきて、年金の額もおおよそ決まってしまえば、さらにあと一年を早起きして、毎日へいこらすることが耐えられなくなってくるというのは、心情としてはよくわかります。この句では、同僚と熱燗を酌み交わして、しみじみとそんな愚痴をこぼしあっているようです。わたしにはそんな仲の同僚はいませんので、一人さびしくビールを注ぎながら、自分にむかってつぶやくだけです。『朝日俳壇』(朝日新聞・2009年12月13日付)所載。(松下育男)
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