煙草一箱百円値上げに……。国民の健康を気遣ってだそうな。フンッ。(哲




2009ソスN12ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 23122009

 志ん生を偲ぶふぐちり煮えにけり

                           戸板康二

ぐ、あんこう、いのしし、石狩……「鍋」と聞くだけでうれしくなる季節である。寒い夜には、あちこちで鍋奉行たちがご活躍でしょう。志ん生の長女・美津子さんの『志ん生の食卓』(2008)によると、志ん生は納豆と豆腐が大好きだったという。同書にふぐ料理のことは出てこないが、森下の老舗「みの家」へはよく通って桜鍋を食べたらしい。志ん生を贔屓にしていた康二は、おそらく一緒にふぐちりをつついた思い出があったにちがいない。志ん生亡き後、ふぐちりを前にしたおりにそのことを懐かしく思い出したのである。同時に、あの愛すべきぞろっぺえな高座の芸も。赤貧洗う時代を過ごした志ん生も、後年はご贔屓とふぐちりを囲む機会はあったはずである。また、酒を飲んだ後に丼を食べるとき、少し残しておいた酒を丼にかけて食べるという妙な習慣があったらしい。「ふぐ鍋」という落語がある。ふぐをもらった旦那が毒が怖いので、まず出入りの男に持たせた。別状がないようなので安心して自分も食べた。出入りの男は旦那の無事を確認してから、「私も帰って食べましょう」。それにしても、誰と囲むにせよ鍋が煮えてくるまでの間というのは、期待でワクワクする時間である。蕪村の句に「逢はぬ恋おもひ切る夜やふぐと汁」がある。『良夜』など三冊の句集のある康二には「少女には少女の夢のかるたかな」という句もある。『戸板康二句集』(2000)所収。(八木忠栄)


December 22122009

 山中に沈む鐘の音師走空

                           井田良江

ろそろ年末もはっきり来週に迫り、いよいよやらねばならぬことの数々に気持ちばかりが焦っている。そんな時でも梵鐘の腹の底にこたえるような低音から、長く尾を引く余韻に包まれると、常にない荘厳な気持ちになるのだから不思議だ。良い鐘とは「一里鳴って、二里響き、三里渡る」のだという。実際どこまで聞こえるかは、都会と山里ではもちろん違うだろうが、どこであっても鐘の音色はブーメランのような形をした物体がゆるいカーブを描いて、そして掲句の通り、向こうの山の彼方へ沈み込むような消え方をする。三浦哲郎の『ユタとふしぎな仲間たち』に出てくる座敷わらしたちの「乗り合いバス」は、鐘の音の輪っかに飛び乗ることだった。小説にはコバルト色の薄べったい虹のようなものとあり、たしかに鐘の音の軌跡は空よりひと色濃い青色の帯のようだ、と合点したものだ。どこからか響く鐘の音のなかで目を凝らせば、コバルト色のブーメランに乗った座敷わらしたちが、せわしない師走の町を見下ろしているかもしれない。〈冬麗や卍と抜けるビルの谷〉〈ひかるものなべてひからせ年惜しむ〉『書屋の灯』(2009)所収。(土肥あき子)


December 21122009

 昭和の空に残されている寒鴉

                           木村和也

和も遠くなりにけり。年が明ければ、もう二十二年以上も前の昔の時代である。昨今のジャーナリズムが盛んに回顧しているのもうなずけるが、しかし昭和はずいぶん長かったので、一口に回顧するといっても、その感慨はさまざまであるはずだ。反射的に思い出す時期も、大きく分ければ戦前の昭和もあれば戦後のそれもある。でも、ジャーナリズムが好んで採り上げたがるのが三十年代の昭和であることに、私は不満を抱いてきた。戦禍からたくましく蘇った日本人、いろんな奴がいたけれどみんなが苦労をわかちあい助け合った時代、往時の小学一年生の教科書みたいに「おはなをかざる、みんないいこ」の大合唱……にはうんざりさせられる。「三丁目の夕日」に代表されるノスタルジックな世界は、表層的な回顧の、ほんの一面であるにすぎない。そんな馬鹿なと、私などはそれこそ回顧する。心をじっと沈めてみれば、あの時代も含めて、昭和はロクでもない時代だったと思う。だから私は「夕日」よりも掲句の「寒鴉」に象徴されるあれこれのほうが、口惜しい話ではあるけれど、的を射ていると思われるのだ。二十年以上も経ているというのに、なお昭和の空には孤独な姿の鴉が残されてあると写る作者の目は健全と言うべきだろう。嫌なことは忘れたいと思うのは人情だが、その反動で夕日を情緒的に美化しすぎる目は逆に病的だと言わざるをえない。この句は多くの支持を得られないかもしれないが、私はあくまでも怜悧である作者の感覚を信頼する。この鴉は決して亡霊などではなく、まぎれもなく昭和の私たちや時代の姿を象徴していると読んだ。『新鬼』(2009)所収。(清水哲男)




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