January 172010
冬の虹貧しき町を吊り上げる
田淵勲彦
冬は、ほかの季節よりも空中のものに意識が向かいます。毎夜10時過ぎに犬の散歩に出かけるわたしは、綱に引きずられながらも、いつのまにか冬空に輝く星にうっとりと見入ってしまいます。ほかの季節には、夜空のことなんてちっとも気にならないのに。本日の句は星ではなく、もっと近くに、そしてもっと鮮やかに現れてくる虹を詠っています。虹を、クレーンのように見据えて、空高くに何物かを持ち上げているように感じることは、それほど珍しいことではないのかもしれません。それでも読んだ瞬間に、ふっと小さく驚いてしまうのは、読者の読みそのものが、足元をすくわれて、空に持ち上げられたかのような気持ちのよさを感じるためなのです。冷たい空気が、句のすみずみにまで行渡っているような、透明感のある作品になっています。この句で特に好きなのは、「貧しき」という語のひそやかさです。ひたすら地べたにしがみついている生命のけなげさを、やさしく表しているようです。『朝日俳壇』(朝日新聞・2009年12月28日付)所載。(松下育男)
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