March 012010
物置の自転車出して北の春
高橋実千代
詩人の斎藤悦子さんから『かんちゃんと俳句の仲間たち』(2010・自然食通信社)というご本を頂戴した。学生時代の友人が集まって、十年ほどつづけているインターネット句会のアンソロジーだ。「かんちゃん」は掲句の作者の学生時代からの愛称で、昨年急逝されたことから、残ったメンバーが追悼の意も込めて編んだ一本である。俳句の専門家がいるわけでもなく、志す人もいるわけじゃない。とかく疎遠になりがちな若き日の仲間たちと、俳句をいわばツールとして交流しようという発想からはじまったグループなのだ。あえて言うならば、交流が主で、俳句は従。しかし元来俳句の座にはそういう側面があるのであり、そこがまた俳句という短い詩型ゆえの利点でもあるだろう。句意は明瞭すぎるほどに明瞭だ。ただそうかといって、この句に表現された春到来の喜びの本当のところは、作者のような北国(北海道)出身者でなければわかるまい。東京のように真冬でも自転車に乗れる環境に暮らしていると、その他の季節の変化にも劇的に対応することは、まずありえない。俳句的にはまことに貧弱な土地柄というのが、東京などの大都会なのだ。そういうことを合わせ思いながら読むと、この句の素朴な詠み方に内包されている技術を超えた(あるいはそんなことに頓着しない)句作の楽しさが感じられてくる。良い本を読ませていただいた。(清水哲男)
April 082016
低く低くわれら抜きたりつばくらめ
斎藤悦子
つばくらめは燕。人家か人に近く営巣するので滞在中は家族同様の親しみを受ける。燕は飛翔しながら飛翔中の昆虫を捕えて食べる。虫は気象状況に応じて地面に近く又は高く飛ぶ。今日はだいぶ低い所を飛び回って捕食している。歩行者にぶつかりそうでいていて見事に切り交して行く。おや今度は腰あたりの低さで抜いていったぞ、とわれらは感心するのである。斎藤悦子氏が詩人仲間に俳句作りを提案して、インターネット上で俳句の集いを始めた。種本はその仲間たちの句が収録されて上梓された書籍中の一句である。<モノクロの蝶の訪れ初夏の窓・かんちゃんこと高橋実千代><満月やわが細胞の動き出す・塚原るみ><あぢさひや嫁ぐつもりと父に言ひ・森園とし子><姿なき口笛の今朝は野バラね・齋藤比奈子><焼芋をふたつに割れば姉の顔・越坂部則道>などなど「亡き友人かんちゃん」の仲間たちの句集である。メモルス会他著『かんちゃんと俳句の仲間たち』(2010)所載。(藤嶋 務)
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