March 162010
にんげんを洗って干して春一番
川島由紀子
ようやく春を確信できる陽気になった……のだろうか、今年の春はまだ安心できない。ともあれ、春一番は既に済み、春分の日も間近である。花粉情報は「強」と知りつつ、あたたかな風のなかにいると、きれいな水で身体中、内側から外側まですっきり洗って、ベランダに干しておきたくなるのものだ。ワンピースを着替えるように、冬の間縮こまっていた身体をつるりと脱いですみずみを丹念に洗って伸ばして、春を迎える身体をふんわり乾かしておきたい。そう、ひらひらと乾く洗濯物にまじって白いオバケ服がならんでいた大原家の庭みたいに。オバケのQ太郎は、確かに着替えや洗濯をしていたはずだ。Q太郎といえば、真っ白で頭に毛が三本と思っていたのが、中身が別にあることに気づかされた子供心に衝撃的な洗濯物だった。よく見るとオバケ服の下からちらっと見える足は黒くて、すると中身は真っ黒なオバケ、というか、足があるんならオバケでもないんじゃないの、と想像はとめどなくふくらんでいく。うららかな春の日差しのなかで、洗濯物が乾くのを待っているオバQの姿を思いながら、掲句を口ずさむのがなんと楽しいこと。〈菜の花や湖底に青く魚たち〉〈さよならは言わないつもり揚雲雀〉『スモークツリー』(2010)所収。(土肥あき子)
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