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April 0642010

 荒使ふ修正液や桜の夜

                           吉田明子

正液は短期間にずいぶん進化したもののひとつだろう。現在の主流は、つるつるっと貼るテープ状のものと、カチカチっと振って使うペンタッチタイプのようだ。どちらもすぐに文字が書けるところがポイントで、以前の液体タイプは乾くまでしばらく待たなければならなかった。昭和52年の発売当初はマニキュアボトルのような刷毛型で、しばらく使うと刷毛がガチガチに固まり、それはもう厄介であったと聞く。修正液の上に慌てて文字を書こうとすれば、よれてしまったり、にじんでしまったり、またぞろ上から修正することにもなる。そうこうするうちに、その部分だけやけに立体的になってしまう。間違ってしまったという気持ちの萎えと、一刻も早く正しく訂正しようという焦りが失敗を生み続け、今日の修正液の改善へとつながっているのだろう。掲句にある「荒使ふ」は、荒っぽくじゃんじゃん使うという意だが、下五の「桜の夜」の効果によって、単なる文字の書き間違いというより、心の逡巡を感じさせる。ところどころに桜の花が散ったような書面を思うと、修正前の言葉を憶測して透かしてみたりしてしまうだろう。修正跡には揺れ動く作者の一瞬前の時間が封印されている。〈校庭に白線あまた春をはる〉〈ペコちゃんもポコちゃんもけふ更衣〉『羽音』(2010)所収。(土肥あき子)




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