May 272010
雷が落ちてカレーの匂ひかな
山田耕司
週はじめから天気が悪い。いよいよ雨の季節の到来だろうか。どしゃぶりの雨に空がゴロゴロ鳴り始めると犬が恐がって家中を走り回る。幼いころ裏庭の灯籠が雷の直撃を受けて真二つに裂けたことがある。落雷の瞬間の物凄い音と、翌日ぱっくり割れた石を見た恐ろしさは忘れない。今でも雨模様の空を遠くから雷が近づいてくると犬ばかりでなく落ち着かない気持ちになる。掲句を一読、落雷をカレーの匂いと結び付ける発想にびっくり。そう言われてみれば、ぴかっと落雷が落ちた瞬間、黄色っぽく照らし出される風景がカレーびたしに思えてくるから不思議だ。落雷への常套的な思い込みを捨てて感覚を働かせた結果、視覚が味覚へつながり奇抜に思える言葉が飛びだしてきたわけで、こちらも五感を働かせてイメージしてみればなかなか説得力がある。おじる気持ちも落雷なんて、カレーまみれになるだけさ、と思えば度胸がつくかも。掲句を含む句集には、そんな具合に楽しい大風呂敷があちこちに広げられている。「手をひつぱる鬼は夕焼け色だつた」「少年兵追ひつめられてパンツ脱ぐ」『大風呂敷』(2010)所収。(三宅やよい)
August 022012
馬と陛下映画の夏を通過せり
山田耕司
8月になると、また数々の戦禍の映像が繰り返しテレビで放映されることだろう。御真影、教育勅語など戦後10年を経て生れた私には遠い出来事にしか思えない。それなのに「陛下」という掲句の言葉に、天皇が白馬に騎乗しゆっくりと画面を通過してゆくシーンが立ちあがる。「陛下」「馬」「夏」という言葉の連鎖がテレビのない時代、暗い映画館で上映されただろう白黒の戦争映画を連想させる。戦争を知らない私にも沖縄の夏、原爆の夏、敗戦の夏と民族の苦しみの歴史が記憶となって残っているのは繰り返される映像があるからだろう。様々な悲劇を巻き起こした戦争。昭和史の記録として焼きつけられた戦争映画の続編がないことを願わずにはいられない。『大風呂敷』(2010)所収。(三宅やよい)
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