June 122010
百合の香の朝やはらかと思ひつつ
小川美津子
夜、家に帰りついて部屋のドアを開けた途端、そこに百合の闇が待ちかまえていたことがあった。何年か前のちょうど今頃、むっとする空気とともに一気に押し寄せるその香りは、まさに息が詰まるほど。芳香には違いないが、ちょっと苦手という人もいるかもしれない。山道を歩いていて、ほのかに百合の香りがするのに花が見あたらず、よく見たら枯れた百合がそっと落ちていた、ということもあった。ほんのりと甘さを風に残しているくらいで、ちょうどよかった気がする。この句の作者は、朝の散歩で百合に出会ったのか、朝摘みの百合を活けたのか。百合も目覚めたばかり、まだひんやりとすがすがしく、その香りもなんとなく漂うくらいなのだろう。「やはらかと思ひつつ」今日もきっと暑くなるし百合の香りもさらに濃く、百合らしくなっていくのだろうと思いながら、静かな朝のひとときを過ごしている。『青田』(1996)所収。(今井肖子)
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