June 222010
夏雲や赤子の口を乳あふれ
安部元気
梅雨さなかとはいえ、時折の晴れ間はまごうことなき夏の日差しになっている。掲句は、もくもくとした夏雲の形態が、赤ん坊の放出する生のエネルギーに重なり、ますますふくれあがっていくようだ。さらに生まれたての小さな口を溢れさせるほどの、ほとばしる乳を与える母の像も背景におさえ、圧倒的な健やかさを募らせている。いまさら母乳の味を覚えているはずもないが、ふいに口中になつかしい感触もわいてくるように思い、見回してみれば世の中にあふれる「ミルク味」たるものの多さに驚いた。アイスクリーム、キャンディーなどの菓子類はともかく、サイダーやカップ麺にまで出現している。これほどの多様さを見るとき、ふと生きる糧そのものであった乳の、あの白色を慕い、ねっとりとしたほの甘さを、今もなお求めているのだとも思えるのである。〈船虫や潮にながされつつ進み〉〈昼寝より覚めれば父も母もゐず〉『一座』(2010)所収。(土肥あき子)
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