OIv句

July 2672010

 カレー喰ふ夏の眼をみひらきつ

                           涌井紀夫

さには熱さと辛さで対抗だ。冷房など効いていない自宅か海の家みたいなところでか、「喰ふ」というのだから、作者の健啖ぶりが強く示されている。何度も意識的に「眼をみひらか」ないでおくと、汗が瞼を伝って目に流れ込んできてしまう。たぶんに心理的な要素がからんではいるけれど、誰にも覚えはあるだろう。こうした何でもないような身体の動きをとらえて、暑い時間にカレーを喰らう男の元気な様子を描出すると同時に、周囲の夏真っ盛りの情景までをも読者に想起させている。なかなかに巧みな「味」のある作品だ。作者の涌井紀夫は、最高裁判事として在職中の昨年暮れに、病に冒され亡くなった。煙草はまったく喫わなかったようだが、肺癌に倒れた。享年六十七。私とは少し縁があって、1960年の京大俳句会で束の間一緒だったことがある。端正な若き日の面差しを覚えている。合掌。俳誌「翔臨」(第68号・2010年6月)所載。(清水哲男)


April 1942011

 うららかやカレーを積んで宇宙船

                           浅見 百

治4年に西洋料理としてお目見えしたカレーは、なにより白米に合うことが日本への定着に拍車をかけた。俳句にも〈新幹線待つ春愁のカツカレー〉吉田汀史、〈カレー喰ふ夏の眼をみひらきつ〉涌井紀夫 、〈秋風やカレー一鍋すぐに空〉辻桃子 、〈女正月印度カレーを欲しけり〉小島千架子、と四季を問わず登場する。そして今、国際宇宙ステーションにまで持ち込まれるという。JAXA(宇宙航空研究開発機構)で販売されている「宇宙食カレー」にはビーフ、ポーク、チキンと3種揃っているという。日本人の好物を調べた結果を見ると、どの世代にもラーメンとカレーが上位を占める。どちらも独自の進化をとげて日本の日常に溶け込んできた。あるときは家族に囲まれ、あるいはひとり夜中に、あらゆる人生の場面で顔を出してきた普段の食べ物が、ハレの日に食べてきた寿司や鰻を上回る票数を得て、好物としてあげられているのだ。成層圏を超えていく宇宙船に積まれているのが、普段の食事であるカレーだからこそ、思わず笑顔がこぼれるのである。『それからの私』(2011)所収。(土肥あき子)




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