September 252010
秋暑しすこやかなればめぐり合ひ
松本つや女
この句の前に〈夕顔に病み臥す人と物語〉〈堂縁に伏して物書く秋の風〉と続いている。いずれも、夫たかしを詠んでいるのだろう。一句目の物語、二句目の秋の風、共に過ごす時間に同じ風が吹いている。終生病弱であったたかし、病が進んでも衰えた様子を見せるのを嫌い、つや女にも、取り乱すことの無いようにと常々言っていたという。貴公子、と呼ばれたたかしだが、長く身の回りの世話をし、やがて一緒になったつや女には素顔のたかしが見えていたのだろう。残暑より少し秋の色合いの強い、秋暑し。まだ暑いながら時に秋風も立つ。この夏もなんとかのりきったなと一息つきながら、一瞬過去へ思いが巡ったのだろう。すこやか、の一語から、こめるともなくこもる思いが伝わってくる。『現代俳句全集 第一巻』(1953・創元社)所載。(今井肖子)
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