October 052010
電灯の紐に紐足す夜長かな
喜多杜子
秋の季題である夜長だが、一年でもっとも夜が長いのは冬至なのだから、真実というより、厳しい夏を越えてきた実感として生まれた言葉である。粘り強い残暑が続いた今年は、夜を夜として楽しめるひとときをことにありがたく思う。掲句は電灯から下がる紐に、さらに紐を足したという。それは、ベッドで読書をしながら眠くなったら手元で電気が消せるためになのか、または夜中にトイレに起きるときにも手元に紐があればすぐに灯すことができるという意味なのか。どちらにしても、自身を持て余すことなく向き合う作者の姿が表れるのは、人間の生活が昼間中心に動いているなかで、このように昼には邪魔になるかもしれないものを夜の時間のために設けるという行為だろう。長くなった夜を意識させ、日常というものがわずかに変化することに気づかされているのだ。『貝母の花』(2010)所収。(土肥あき子)
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