October 092010
校庭のカリン泥棒にげてゆく
久留島梓
大きくて香りの高いカリン(榠と木偏に虎頭に且)だけれど、生の実は固く渋い。薬にもなるというが、食べようと思えば、果実酒にしたり砂糖漬けにしたりと手間がかかる。そんなカリンの実、たわわに実ったうちのいくつかをもいで持っていったところでさして咎められることもなかろうに、泥棒という言葉が与えるスタコラサッサ感が、カリンのやたらにいびつな形と共にユーモラスだ。待て〜と追いかけることもなく、その後ろ姿を作者と共に見送りながら、思いきり伸びをして青空に向かって両腕を突き出したくなる。「教師生活三年目をなんとか終え」とある作者の二十句をしめくくっている一句は〈テストなど忘れてしまえ春近し〉上智句会句集「すはゑ(漢字で木偏に若)」(2010年第8号)所載。(今井肖子)
September 132011
青空やぽかんぽかんとカリンの実
沼田真知栖
掲載句のカリンは漢字。カリンもパソコン表示できない悩ましいもの。か(榠)はあっても、りん(木偏に虎頭に且)がない。りんごや梨のように枝から垂れるように実るというより、唐突な感じで屹立する。この意表をついた実りかたをなんと表現したらよいか、まさに掲句の「ぽかん」がぴったりなのだ。カリンの果実はとても固くて渋いので、生食することはできない。部屋に置いても長い期間痛むことなく、なんともいえない豊潤な香りを漂わせてくれるので、どこに落ちていても必ず持ち帰ることにしている。姿かたちもごく近しいマルメロはバラ科マルメロ属、カリンはバラ科ボケ属とわずかに異なる。サキの小説に『マルメロの木』というユーモア短編がある。愛すべき老婦人の庭の隅にある一本の「とても見事なマルメロの木」のために起きる小さな町の大騒動を描いたものだ。これもぽかんぽかんと実るマルメロがじつによい味を出している。〈小鳥くるチェロの形のチェロケース〉〈さはやかや橋全長を見渡して〉『光の渦』(2011)所収。(土肥あき子)
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