k@ユk

October 10102010

 さびしさはどれも劣らず虫合

                           北 虎

夜10時になると、犬の散歩に出かけるわたしは、このごろ確かに虫の涼やかな声を聞くことが多くなりました。坂道の途中で犬が、理由もなく急に立ち止まると、やることもなくその場で虫の声に聞き入ってしまいます。今日の句、虫合は「むしあわせ」と読みます。平安時代に、郊外に出かけて鳴き声のいい虫を捕り、宮中に奉ったことを「虫選(むしえらび)」と言い、虫の声のよしあしを合わせて遊ぶことを虫合というと、歳時記に説明がありました。なるほど、今ほど刺激的な時間のつかい方がなかった時代には、草づくしだの、虫合だの、じかに手で自然に触れて、そのまわりでささやかな楽しみを見つけていたようです。今日の句では、虫たちが競っている響きのよい声を、「さびしさ」に置き換えています。秋の虫の声そのものにさびしさを感じるだけではなく、一生を美しく鳴き通すことをも、さびしいといっているかのようです。そういえばこのさびしさは、どんな遊びに興じた後にも襲ってくるさびしさと、通じるものがあるのかもしれません。『角川俳句大歳時記 秋』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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