October 112010
決められた席よりみたる芒かな
櫻井ゆか
作者は京都在住だから、日本庭園のある料亭での会合の席でのことだろうか。いささか格式ばった会なので、あらかじめ座る席は決められていたのだろう。たぶん、庭園に正対する席ではない。庭を拝見するためには、少し首を曲げねばならないくらいの位置だ。そこからそうやって庭を眺めていると、見事な芒(すすき)が風に揺れていた。けれども、作者の位置からでは芒全体の姿を見ることはできなかったようだ。そんな中途半端な見え方ではあったが、何かにつけてその折の芒の印象が鮮やかによみがえってくるというのである。人の記憶というのは面白いもので、必ずしもよく見えたものや聞こえたものを鮮明に覚えているとは限らない。むしろ部分的にとか中途半端に見たり聞いたりしたものが鮮明に思い出されることがある。そのような記憶の不思議なメカニズムを、この句はさりげなく提出している。一見なんでもないような句だけれど、なかなかに感性の鋭い作品だと受け取れた。『いつまでも』(2010)所収。(清水哲男)
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