uテ子句

November 02112010

 実ざくろの裂けたき空となりにけり

                           下村志津子

の上では晩秋となったが、残暑の疲れも取れぬ間に、冬が横顔を見せているような今年に、明度の高い秋の晴天は数えるほどだった。あらゆる果実は美しい秋の空に冴える。ことにざくろの赤といったら。中七の「裂けたき」は、ざくろの心地といったところなので、「分かるわけない」と両断されてしまえばそれまでだが、それでもざくろにはそんな思いがあるのではないかと意識させる果実である。言わずと知れた鬼子母神を悲しい母の姿が背景に見え隠れしながら枝をしなわせるほどの重さにも屈託を感じる。「裂けたき」によって、ざくろの赤々と光りを宿した内部を思わせ、秋天の芯に向かって、今にもめりめりとまるで花開くように裂けてゆくのではないかと思わせる。句集名の可惜夜(あたらよ)とは、明けるのが惜しい夜。すごい言葉だ。〈可惜夜の鳴らして解く花衣〉〈連翹のさわがしき黄とこぼれし黄〉『可惜夜』(2010)所収。(土肥あき子)




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