December 042010
羽ばたきの一つありたる鴨の水
石井那由太
首を埋めて丸くなったまま漂っている浮寝鳥、まこと気持ちよさそうでどんな夢を見ているのかと思うが、脚は常に動いており熟睡することはないらしい。それでも冬あたたかな池の辺で日向ぼっこしつつぼんやりしていると、鴨ものんびりしているように見える。そんな時、突然水音がしてそこに日差しが集まり一羽が羽ばたく。そしてきらきらとした音と光は一瞬で消え、そこは静かな鴨の池にもどるのだが、この句の下五が、鴨の池、だったら、一気に邪魔なものがいろいろ見えてきてどうってことのない報告になってしまう。鴨の水、という焦点の絞り方が、観たままでありながら一歩踏み込んで読み手をとらえるのだろう。『雀声』(2010)所収。(今井肖子)
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