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December 30122010

 明日より新年山頭火はゐるか

                           宮本佳世乃

年も余すところ一日となった。明日は朝から掃除、午後はおせち料理に頭を悩ませ、夜は近所の神社へ初詣に出かけることにしよう。平凡だけど毎年変わらぬやり方で年を迎えられるのを幸せに思う。それにしてもこの句「明日より新年」というフレーズに「山頭火はゐるか」と不思議な問いかけが続く。山頭火は放浪の人だからせわしない大晦日も、一人酒を飲んで過ごしていたかもしれない。だとすると家族と過ごす大晦日や正月に縁のない孤独な心が山頭火を探しているのだろうか。そんな寂しさと同時に「さて、どちらへ行かう風がふく」と常にここではない場所をさすらっていた山頭火のあてどない自由が「明日より新年」という不安を含んだ明るさに似つかわしく思える。『きざし』(2010)所収。(三宅やよい)


July 1472011

 ともだちの流れてこないプールかな

                           宮本佳世乃

型のレジャープールにはウォータースライダーがあったり、波の打ち寄せるプールがあったり、流れるプールが中州をぐるりと取り巻いていたりする。流れる方向は一定で、ビニールボートや浮き輪につかまって流れていると自分で泳がないでもくるくる回り続けることができる。流れにとどまって待っているのに後ろからくるはずの友達が「流れてこない」。その表現に少し不吉でかすかな死の匂いが感じられるのは水の流れと「彼岸」が結びつくからか。まぶしい夏の日差しと人々の歓声に取り巻かれつつ友達を待つ時間が長く感じられる。きっと友達は「ごめん、ごめん」と言いながら全然違う方向から歩いてきて、その瞬間に不安な気持ちも消えてしまうだろう。そんなささいな出来事も俳句の言葉に書き留めると、自分にも覚えのある時間が蘇り、ことさらに意味を持って思い出されたりするのだ。『きざし』(2010)所載。(三宅やよい)


July 2572013

 ひまはりのこはいところを切り捨てる

                           宮本佳世乃

彩画教室に通っていた頃、ベテランの一人がすっかり枯れて頭をがっくり垂れたひまわりばかり描いているのを不思議に思った。大きな花びらもちりじりに干からびて黒い種子がびっしりと詰まったその姿に興味を引かれて描き続けているのだという。この人にとってひまわりの美は太陽の下でカンと頭をふりあげている姿ではなく、種をびっしり抱えながら干からびてゆく姿だったのだろう。美しさを感じるポイントが人それぞれのように「こはいところ」も人によって変わるかもしれない。ひまわりのどこがこわいのか、どこを「切り捨てる」のか、いろいろ探っているうち、具体的な部分ではな「ひまはり」の存在自体が「こはい」ように思えてきた。堂々とした向日葵の原型に対峙した句が「向日葵や信長の首切り落とす」(角川春樹)の句だとしたら、「ひまはり」の「こはいところ」にあえて向かい、切り捨てるこの句からは健気さが感じられる。『鳥飛ぶ仕組み』(2012)所収。(三宅やよい)


September 1492013

 かたすみのかたいすすきを描く絵筆

                           宮本佳世乃

週はじめ、小さい向日葵とすすきが数本ずつの花束が花屋の店先に。暑さが残りながらも秋めいてきた今時分らしいようにも思えて買い求めた。一緒に投げ入れてみるとなかなかおもしろく、すすきの穂はまだ硬いけれどふれるとなめらかで、窓際に置くと空を恋うように光って揺れる。来週の名月までは持たないなと思いながら本棚の俳誌をめくっていたら掲出句が目に止まった。まず一叢のすすきがありありと見えて、それから細い絵筆がすっすっと動き次々にすすきのかたちが生まれてゆくのが見えてくる。揺れるすすき、絵の中のすすき、絵筆の先、それぞれの曲線が美しい。俳誌「豆の木」(2012年4月・16号)所載。(今井肖子)


February 0722015

 紅梅のゆるく始まる和音かな

                           宮本佳世乃

の季節は春を待ちながら静かに始まり、その花は香りを放ちつつ早春を咲きついでいつのまにか終わってゆく。丸く小さい蕾はいかにもかわいらしく、その濡れ色を一輪ずつほどく濃紅梅もあれば、夕空の色にほころぶ薄紅梅もある。一言で濃い、薄い、と言っても数え切れないほどの色があり、纏う光や風によっても趣が変わる。そんな紅梅のさまざまな視覚的表情が、和音、という聴覚的表現で見えてくる。と、こんな風に理屈で、和音、という言葉に意味付けすることは作者の意図するところではないのかもしれない。ともあれ、独特の感覚で対象を捉えて自然に生まれた言葉にすっと頬をなでられたような、不思議な気がした。『鳥飛ぶ仕組み』(2012)所収。(今井肖子)




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