ム紀F句

January 2312011

 冬の雨硝子戸越しに音を見る

                           小林紀彦

が覚めて、朝の新しい雨の音を布団の中で聞いているのが、好きです。勤めのない土曜日の朝であれば、なおさらよく、ああ降っているなと思って、外の濡れた姿をしばらく想像して、それから再び眠りに落ちてゆきます。関東地方に長年住んでいると、しかし冬はひたすら晴天ばかりです。長い冬のあいだを、積雪に苦労をしている地域の人々からみれば、なんと贅沢なことかといわれるかもしれません。今日の句の工夫は、「音を見る」としたところ。特段すごい表現だとは思いませんが、それでもそう言いたくなる気持ちはよくわかります。目に見える姿と、かすかに聞こえる音がぴたりとあわさって、雨をぜんたいで受け止めようとしているようです。ちょっとひねっただけで、句はこれほどに生き生きとしてくるものかと、あらためて句の音を、みつめます。「朝日俳壇」(「朝日新聞」2011年1月23日付)所載。(松下育男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます