February 162011
雪の上に/回転木馬をめぐって/馬の歩いた跡
ヴィンセント・トリピ
原文は〈in the snow/around the carousel/tracks of a horse vincent tripi〉。雪が降った朝の公園だろうか。来てみると回転木馬の周囲に、馬が歩いたひづめの跡が残っているーーまあ、句そのままの意味合いだが、もしかして夜中に回転木馬たちのなかの一頭(a horse)が所定の場所を離れて、周囲を回転するように自由にのびのびと歩いたのかもしれない。そう考えるとファンタスティックな絵とイメージが加わる。それはしっかり固定されている木馬たちの見果てぬ夢なのかもしれない。閉園した真夜中の回転木馬のファンタスティックなドラマ、その入口を思わせるような俳句である。あるいは、どこかからお茶目な馬がやってきて、自由がきかない木馬たちにこれ見よがしに、その周囲を歩きまわって見せたと想定してみるのも楽しい。海外での俳句がさかんであることは、以前から言われている。北米でも、最も大きいアメリカ・ハイク協会が一九六八年に創設された。句会も定期的に開催され、同人誌も発行されているという。広大な北米大陸では、雪深いニューイングランドと雪のないロサンゼルスとでは、季節感に当然大きなへだたりがある。掲句はボストン・ハイク協会が主催したコンテストでの受賞作。上田真訳『俳句とハイク』(1994)所収。(八木忠栄)
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