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March 0632011

 春服にポケットのなき不安かな

                           鹿野佳子

ケットという、かわいらしい響きのためでしょうか。あるいは、まど・みちおの「ふしぎなポケット」を連想するからでしょうか。ポケットというものは、どこか、よいことにつながる通路のような心持がします。春になり、分厚いコートを脱ぎ、さらにジャケットを脱いで身軽になったあとで、でも、どこか物足りない気分がするのはどうしてでしょうか。ああそうか、冬服にはあっちにもこっちにもあったポケットの数が、急に減ってしまったのでした。このポケットには財布を、こちらには定期券とハンカチをと、しまう場所を決めていたもの達も、テーブルの上に置かれて、困り果てています。どこにもしまえなくなった小物たちが、徐々に明るくなってくる春の日射しの下で、持ち主と一緒に、途方に暮れているのです。『新日本大歳時記 春』(2000・講談社)所載。(松下育男)




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