April 052011
入学写真いつも誰かがよそ見して
樋笠 文
いつどんな写真でも、きれいな笑顔で写る知人にコツを聞いたことがある。秘訣は単純明快。「まばたきをしない」だった。そんなことが可能なのかと思うのだが、集合写真のときなどは「はい、撮りますよ」の掛け声まで目をつぶっているくらいでよいのだと言う。たしかに「いい顔」は長くは続かない。子どもであればなおさらだろう。隣の子が笑わせたり、後ろの子に髪を引っ張られたり、少しぼんやりしていたり。それにしても、全員きちんと正面を向いている集合写真が果たして必要なのかと、ふと思う。公平を旨とする現代では、皆同じ分量で写っていることが重要なのだろうか。うわの空だったり、俯いていたり、泣きべそかいていたり、そんな瞬間を切り取った集合写真の方が、時代を経たのちに記念になったりするのではないだろうか。それでも先生は毎年半分あきらめながら、あの手この手でカメラへ集中させようとする。そして、今日の入学式にもきっと誰かがよそ見をしていることだろう。俳人協会自註現代俳句シリーズ『樋笠文集』(1981年)所収。作者は小学校の先生。〈初蝶を入るる校門開きけり〉〈風光るジャングルジムに児が鈴生〉など明るく多彩。(土肥あき子)
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