May 172011
田水張る静謐といふ四角形
安徳由美子
以前は6月上旬に一斉にしていた田植えも、現在ではゴールデンウイークに合わせて早めになったという。田植えを前に土をおこしたり、畦を作ったり、下準備を経て、いよいよ水を満たした田は、凛と張りつめした静謐そのものといった風情になる。全面に空を映し、鳥の影が渡り、わずかな風にささやかなさざ波を立てる。頼りない苗が風になびく植田は、青々と力強い青田へ、そして秋には黄金色の稲穂が揃う。この美しい移り変わりが、都会ではもう間近には見られないようになってしまった。田の漢字のありようが、耕作地と畦道であることをいつまでも当然と思いたいものだ。今月末、ようやく雪が消えて、準備が整った新潟に田植えをさせてもらいに行く。機械が余した片隅や変形部分を手植えする補植を体験する。はたして手伝いになるのか、どうか。しかし田水の張った聖なる四角に足を踏み入れるチャンスに、胸は高鳴るばかりである。〈ひしひしと我一人なり春の暮〉〈この坂を上れば未来花なづな〉『藻の花明かり』(2011)所収。(土肥あき子)
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