]ト L句

June 2962011

 すいすいとモーツアルトにみづすまし

                           江夏 豊

神、南海、広島、他のチームで活躍したあの往年の豪腕の名投手・江夏が俳句を作ったことに、まず驚かされてしまう(シツレイ!)。さらに「モーツアルト」と「みづすまし」のとんでもない取り合わせにも驚かされる。新鮮である。ここで流れているモーツアルトの名曲は何であろう? おそらく「すいすい」という軽快さを感じさせる曲であろうかと思われる。同時に、水面をすいすい走るみづすましの動きにもダブらせている。まさかみづすましがモーツアルトの曲に合わせて滑走しているわけではあるまい。並列されたモーツアルトもみづすましも、ビックリといったところであろう。さすが名投手、バッターが予測もしなかったみごとな好球を投げこんできた。みづすまし(水馬)は「あめんばう」とも呼ばれてきたけれども、学問的に正しくは「まひまひ(鼓虫)」のことをさすのだという。水面を馬が駆けるように四足で滑走するところから「水馬」。この頃は見かけなくなった……というか、当方が池や小川の水面をじっくり覗きこむことが少なくなってしまった、と言うべきか? 「打ちあけてあとの淋しき水馬」(みどり女)、「みづすまし味方といふは散り易き」(狩行)などがある。『命の一句』(2008)所載。(八木忠栄)




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