@句

July 0472011

 炎天の段差に落ちてなほ歩む

                           眉村 卓

にだって、段差を踏み外した経験はあるだろう。でも、足腰の柔軟な若い頃には、踏み外してもさして気にもならない。すぐに立ち直れる。それを句では「段差に落ちて」と表現しているから、かなり足腰への衝撃があったものと読める。つまり、高齢者の実感が詠まれている。ましてや、それでなくとも暑くて歩きづらい炎天下だ。「しまった」と思ったときには、もう遅い。膝や腰に受けた衝撃でよろめき、辛うじて転倒は免れたものの、しばらくは体勢を立て直すべくその場にじっとしている羽目になる。その程度のことでは誰も手を貸してはくれないし、みんなすいすいと追い抜いてゆく。つくづく若さが羨しいのはこういうときで、作者はおそらく目ばかりカッと前方を見つめたまま、またそろりそろりと歩きはじめたのだ。こうなるともう、当人にはただ歩くことだけが自己目的となり、出かけてきた目的などは意識の外になってしまう。「なほ歩む」の五音が、そのことを雄弁に物語っている。作者はSF作家。『金子兜太の俳句塾』(2011)所載。(清水哲男)




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