er句

July 2572011

 老犬の目覚めて犬に戻りゆく

                           菊池麻美

んだ途端に、人間にも通じるなと思った。仔犬や若い犬は、寝ているときも犬そのものだ。犬としか見えない。だが老いた犬の場合には、まさか他のものと見間違うほどではないにしても、精気が感じられないので、ボロ屑のようにも思えてしまう。それが目覚めてのそりと起き上がり、動きはじめると、だんだん本来の犬としての姿に戻っていくと言うのである。この姿の移り行きは、人間の老いた姿にも共通しているようで、もはや私も他人のことは言えないけれど、多くの老人の昼寝のあとのそれと似ている気がする。実際、たとえば九十歳を過ぎたころからの父の昼寝姿を見ていたころには、あまり生きている人とは映らなかった。ボロ屑のようだとは言わないにしても、精気のない人の寝姿はいたましい。半分くらいは「物」のようにしか見えないのだ。それが起き上がってくると、徐々に人間らしくなってきて安心できた。この句、作者は犬に託して人間のさまを言いたかったのかもしれない。俳誌「鬼」(26号・2011)所載。(清水哲男)




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