August 132011
朝顔の前で小さくあくびする
岸田祐子
我が家には門がなく、玄関の前に目隠し代わりの木製のフェンスがある。その内側に母が先日、買い求めてきた朝顔の鉢を三つ置いた。蔓を絡ませるにはフェンスの一本一本が太すぎるのでは、と思ったが今や器用に絡んで毎朝咲いている。いわゆる団十郎というのだろうか、茶色がかった渋い赤に白い縁取りの花が気に入っているが、赤紫も藍色も、あらためて見ると風情のある花だ。早朝、朝顔の鉢の前にしゃがみこんでいくつ咲いているか数えたり、しぼんでしまった花殻で色水を作ったりしたことをふと思い出させるこの句。何の説明も理屈もなく、朝の空気に包まれた穏やかな風景がそこにある。「花鳥諷詠」(2011年3月号)所載。(今井肖子)
August 292015
真つ直ぐに闇を上つてゆく花火
岸田祐子
一見何ということのない句だが、打ち上げられてから花開くまでのわずかな時間を見つめている、作者を含めた多くの花火見の人々の緊張感がうまく表現されている。虚子の句に〈空に伸ぶ花火の途の曲りつゝ 〉があり、実際は微妙に揺らぎながら上っていくが、真っ直ぐ、の語の勢いが読み手に大輪の花火の輝きと全身に響く音の爽快感を感じさせる。八月も終盤、七月に始まったそちこちの花火大会ももう終わりだなと関東の花火大会を検索すると意外にも、九月、十月と結構予定されている。確かに空気が澄んできてくっきり見えるのかもしれないが、なんとなく気持ちがのらないような気がするがどうなのだろう。『南日俳壇』(「南日本新聞」2015年8月27日付)所載。(今井肖子)
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