S句

August 2082011

 花火舟音なく岸を離れけり

                           九鬼あきゑ

から花火を見たことはあるが、舟から見た経験は残念ながら無い。大きい納涼船でビール片手にわいわいがやがや、それはそれで楽しかったが。この句は「花火舟」と題された十句作品のうちの一句で他に〈船頭の黙深かりき花火の夜〉〈誰もみな海に手を入れ花火待つ〉など。舟の軋む音、波の音、耳元の風音や人の声。花火を待つ間の静かな時間がこの句から始まっている。空に海に大輪の花火が消える一瞬が、天に届けとばかりに響く音と共に、読み手の中に蘇る。『俳壇』(2011年9月号)所載。(今井肖子)




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