September 182011
秋暑く道に落せる聴診器
高橋馬相
この句が読者を振り向かせるかどうかは、道に落したものが何かにかかっています。当たり前なものではつまらないし、かといって「手術台の上のこうもり傘」ふうな、突拍子もないものでは、わざとらしさが残るだけです。おそらく、句を作っている時に、道に何を落したことにしようかなどと考え込んでいるようでは、期待できません。才を持っている人なら、何も考えずとも自然に思い浮かんでしまうものだし、その自然に思い浮かんだものが、ああなるほどと読者を納得させるものになってしまうのでしょう。ところでこの句、熱いアスファルトの上に落ちた聴診器が聴きとっているのは、去ろうとする夏の足音と考えても、よいのでしょうか。『日本大歳時記 秋』(1971・講談社)所載。(松下育男)
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