December 202011
平らかな石に渡りの数記す
原 和子
現在では見ることはないが、鉛筆や紙がじゅうぶんに普及されるまで、石板と石筆が筆記具だった時代があった。また高松塚古墳や古代エジプトの壁画を例に出すまでもなく、滑らかな石の面になにかを残そうとするのは人間の本能でもあるようだ。掲句の石とは、渡り鳥がたどり着く川辺の、水に洗われ、日に月にさらされた石であろう。そしてそこに記された数とは、おそらく単なる数字ではないように思う。例えば五ずつ数えるのに、日本では正の字を使うが、世界では星を描いたり、四本の棒に横線など、さまざまな数え方がある。これらには、最終的な数という総数ではなく、ものごとをひとつひとつ見つめている真摯な思いがある。渡り鳥という命をかけた生きもの数を記すのに、もっともふさわしいのは、紙の上に書かれた合計ではなく、石に刻まれた一のかたまりなのだろうと強く思うのである。『琴坂』(2011)所収。(土肥あき子)
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