ム給

December 21122011

 眼薬さしてねむる大雪になろう

                           小林銀汀

は音もなく不気味な静けさのなかで、もさもさと降り積もり、一夜にして大雪になることがある。いつもと何かしらちがう静けさのなかにいて、雪国の人にはそんな予感がする冬の夜があるのだ。「嵐の前の静けさ」ではないけれど、毎夜寝る前にさしている眼薬を、今夜もいつもと変わらずさすという何気ない日課。なぜか降る雪のごとく、冷たく澄んだ眼薬がまなこにしたたり広がって行くような錯覚も読みとれる。一段と寒さが厳しく感じられる夜なのだろう。もちろん「ねむる」で切れる。銀汀(ぎんてい)は越後長岡の写真師だが、俳句も作って井泉水の「層雲」に拠ったこともある。掲句は心酔していた山頭火調が感じられる。山頭火は昭和十一年五月から六月にかけて、一茶から良寛へとめぐる旅の途中、銀汀宅に三日間滞在したという。よく知られている山頭火の旅装束の写真は、長岡に滞在中に銀汀が撮影したものであることは、知る人ぞ知る。他に「星のある月のある雪を歩いてゐる」がある。『荒海』(1971)所収。(八木忠栄)




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