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February 2022012

 ちぐはぐな挨拶かはし浅き春

                           藤田久美子

年はいつまでも寒い。私の住む東京三鷹の早朝の気温も、まだ氷点下の日が多い。しかし、日が昇ってきて窓を開けると、光りの具合は日に日に春めいてきている。光りを見る限りでは、もうすっかり春だと言ってもよいだろう。だから今年は、掲句のようなことが起こりがちだ。ゴミを出しに行くとたいてい誰かに会うから挨拶を交わすわけだが、私が光りの様子から「もう春ですねえ」と言うと、先方は寒さに背を丸めながら「今日も寒くなりそうで……」などと返してくる。まさに「ちぐはぐな挨拶」になってしまい、でも、どちらも嘘をついているわけではないので、ときには顔を見合わせて微笑しあったりもする。春浅き日の暮しの一コマを的確にとらえてみせた佳句である。『未来図歳時記』(2009)所載。(清水哲男)




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