寒い寒いとぼやいているうちに、二月もあと一週間。春よ、来い。(哲




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February 2322012

 不健全図書を世に出しあたたかし

                           松本てふこ

あたたか」は春の心地よさがぼーっと感じられる頃で、今年のように厳しい寒さを経た身には、あたたかさを待ち望む気持ちが強くなるようだ。エロ本、マンガ?よく世の中の攻撃の的になる「不健全図書」だけど、その昔、思春期に差しかかった子供たちには誰にも聞けないことを盗み見て裏の世界を知るための指南書のようなものだった。今のようにインターネットもない、親や大人たちはコワイ。面と向かって聞けないことを、年の離れた兄弟がベッドの下にかくしている「不健全図書」をこっそり引っ張り出しては盗み見るスリルを味わっていた。教育的指導を好む大人たちは「不健全図書」が猟奇的な犯罪を招いているお考えかもしれないが、「不健全図書」にお世話になった身としては、そんな単純なものでもないだろうと抗議したい気持ちがある。その意味で不健全図書を作る仕事を「あたたかし」と言ってのける作者の詠みぶりに拍手を送りたい。『俳コレ』(2011)所載。(三宅やよい)


February 2222012

 松籟を雪隠で聞く寒さ哉

                           新美南吉

春から二週間あまり経ったけれど、今年の春はまだ暦の上だけのこと。松籟は松を吹いてくる風のことだが、それを寒い雪隠でじっと聞いている。「雪隠」という古い呼び方が、「寒さ」と呼応して一層寒さを厳しく感じさせる。寒いから、ゆっくりそこで落着いて松籟に耳傾けているわけにはゆかないし、この場合「風流」などと言ってはいけないかもしれないけれど、童話作家らしい感性がそこに感じられる。今風のトイレはあれこれの暖房が施されているけれども、古い時代の雪隠はもちろん水洗ではなく、松籟が聞こえてくるくらいだから、便器の下が抜けていていかにも寒々しかった。寺山修司の句「便所より青空見えて啄木忌」を想い出した。南吉は代表作「ごんぎつね」で知られている童話作家だが、俳句は四百句以上、短歌は二百首ほど遺している。また宮澤賢治の「雨ニモマケズ」発見の現場に偶然立ち会っている。他に「手を出せば薔薇ほど白しこの月夜」がある。『みんな俳句が好きだった』(2009)所載。(八木忠栄)


February 2122012

 ねこ葬る地の下深き温みまで

                           笹島正男

月12年間一緒に暮らした飼猫を見送った。借家住まいゆえ、庭に埋めることは叶わず、火葬してペット霊園に納骨するという人間と同じ仰々しさとなった。掲句の「葬る」の読みは語数から「ほうむる」ではなく「はふる」。この「はふる」の語源が「放る」と知り、愛情とともに猫と人間とのあるべき距離が感じられた。野良犬などに掘り返されることのないよう、静かに眠っていられるよう深く深くひたすら掘る。作者の気持ちがおさまるところまで掘り進め、「地の下深き温み」に行き当たる。そして、そっと土に返すのだ。動物霊園事業に関わる法律が制定されたのが昭和45年というから、それ以前はおおかたは飼っているペットが死んだら火葬もせず埋めていた。そのうえ、猫は放し飼いにするのが普通だったので、年を取って家に帰ってこなくなれば、どこか死に場所を見つけに出ていったと言われていたのだ。いまやペットは、家族と同等、ともすれば家族以上の存在で人間に寄り添っていることから、死の受入れ方もまた時代とともに変貌している。それにしても、ペット産業に携わる人々から死んだ猫を「猫ちゃん」と呼ばれることについては、どうにも違和感がつきまとう。明日2月22日は猫の日。近所で猫を見かけるとまだ胸のあたりがきゅんと痛くなる。『髪(かみのけ)座』(2011)所収。(土肥あき子)




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