@句

February 2822012

 囀りの裏山へ向く仏足石

                           松原 南

足石とは、釈迦の足裏の形を刻んだ石である。インドから伝わり、日本では奈良の薬師寺にあるものがもっとも古く、天平勝宝5年(753年)の銘がある。釈迦を象徴するものとして礼拝の対象とされ、比較的方々の寺社に見られるというが、わたしが実際に仏足石を認識したのは俳句を始めてからだった。同行者は皆、さして興味を引くでもなく、石灯籠や五輪塔を見るのと同様の反応だったが、その巨大な造形は寺の庭にあっていかにも風変わりに映った。ひとつひとつの足指には丹念に渦が刻まれ、前日の雨がわずかに溜ったそれは、宮澤賢治の「祭の晩」に出て来る大男の姿が重なるような深々としたあたたかさが感じられた。掲句は大きな仏足石が爪先を揃えて裏山に向けられているという。山は今、若葉が芽吹き、鳥たちの囀りであふれている。やはりうっかり里に下りて、助けられた少年に「薪を百把あとで返すぞ、栗を八斗あとで返すぞ」と言い残し、山へと去っていった金色の目をした男の足跡に思えてならない。〈薄氷を動かしてゐる猫の舌〉〈雫より生れし氷柱の雫かな〉『雫より』(2011)所収。(土肥あき子)




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