March 202012
白椿亡き子の臍の緒五十年
結城蓉子
昨年、民族学者の友人から仙台にある「冥婚」という風習を聞いた。亡くなった子供が20歳になったとき、あの世で結婚したとする追善供養である。亡くなったのちもなお、わが子が幸せに暮らしてほしいと願う親の心にひたすら胸を打たれる。掲句は白椿という清らかな花を眺めながら、臍の緒が収められている桐の小箱のことに思いを馳せる。指折り数えるまでもなく、もう50年という月日が流れているのだ。いつまでも幼いままの子の顔かたちをそっと胸の奥の小箱を開いて懐かしむ。生きるとは、あらゆることに区切りをつけながら過ごす日々をいうのだろう。暑さ寒さも彼岸まで。一歩一歩ゆっくり春になっていく。『アウシュビッツの風』(2011)所収。(土肥あき子)
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