黒沢明の『夢』に原発が爆発するシーンがある。知らなかった。(哲




2012ソスN5ソスソス3ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 0352012

 あふれさうな臓器抱へてみどりの日

                           小川楓子

われてみるとおなかの中には胃から腸から肝臓やすい臓にいたるまでさまざまな臓器がひしめいている。普段健康でいると、見えない臓器なんぞ気にもとめないが、一つ不調になるだけでたちまちのうちに日常生活に支障をきたすだろう。内視鏡検査で咽喉から胃壁に降りてゆくカメラで薄赤い内部を見る機会があったが変なものが見えてしまったら怖いのでひたすら視線を逸らして検査に耐えていた。輝く新緑のただなかに立つ人間それぞれが、あふれそうな臓器を抱えていると思うと少し薄気味悪く思える。「あふれそうな」は臓器とみどりと双方にかかっているが、みずみずしい季節を象徴する「みどり」と「臓器」の生々しさと結び付けることで予定調和的なリリシズムから一歩踏み出している。『超新撰21』(2010)所載。(三宅やよい)


May 0252012

 自由への道出口なし嘔吐蠅

                           榎本バソン了壱

れが俳句?――といぶかしく思われる御仁は多いだろうけれど、れっきとした俳句である。(俳人はこういう句は間違っても作らないだろう。)畏れ多くも、サルトルの著書のタイトルを列挙しただけだが、ちゃんと五・七・五の定形であり、夏の季語も入っている。句意も妙に辻褄が合っているし、下五「嘔吐蠅」は「オートバイ」の駄洒落。「ガリマール版人文書院フランス装実存主義への憧憬」と添え書きがあるが、私などの学生時代には、あの「人文書院フランス装」が大抵の書店には必ず並んでいた。「実存主義」に遅れはとらじと買いこんで貪り読んだ、青い日々が懐かしい。「私が影響を受けたフランスの文学、美術、映画、街区、生活、極めて個人的なさまざまな記憶を掘りおこして、俳句にしてみようと考えた」と後書にある。なるほど、ランボオ、ヴェルレーヌに始まって、ゴダールあり、オペラ座やエスカルゴを経て、クスクスまでと幅広い。48句は「AKB48への対抗である」と鼻息も荒い。ちなみにランボオを詠んだ句は「少年は地獄の季節駆け抜けり」。各句とも例によってユニークな筆文字で書き添えられていて楽しめるし、さらにひるたえみ嬢による仏訳もそれぞれに付されている。『佛句』(2012)所収。(八木忠栄)


May 0152012

 メーデー歌いつより指輪にときめかず

                           福田洽子

980年代半ばから十数年間をOLとして過ごしていたが、メーデーとは希薄な関係のままだった。「8時間は労働、8時間は休息、8時間は自由な時間のために」というメーデー誕生の主張を、新鮮な気持ちで眺めている。バブル期といわれる好景気にもまるきり実感はなかったが「24時間働けますか♪」というバカバカしいCMは今も耳底に残っている。あらためて「メーデー歌」を検索してみると「聞け万国の労働者」がヒットした。聞いたことはあるが、歌詞は最初のフレーズのみしか覚えはなく、以降が「汝の部署を放棄せよ」「永き搾取に悩みたる」などと続くとは思いもよらなかった。この時代の先輩たちの熱き攻防が、後に続く労働者のさまざまな権利を成果として実らせてきたのだろう。掲句の「いつより指輪にときめかず」には、若い日々へのほろ苦い回顧がある。指輪にときめいていた頃の指は、未来を掴もうと戦っていた。野望に満ちた手は装飾品を欲し、また希望に満ちたしなやかな指にはきらめきや彩りがよく似合う。今あらためて、装飾品から解放され、じゅうぶんに時を経た無垢の指を見つめている作者がいる。次の世代へとバトンを渡したあとの手はおだやかに皺を刻み、戦い掴み取る手から、差し出す掌へと変貌している。『星の指輪』(2012)所収。(土肥あき子)




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