iPadで本を読むようになってから、紙の本を読むのが辛くなった。(哲




2012ソスN5ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 0852012

 銀河系語る泉にたとえつつ

                           神野紗希

人的な好みもあろうが、専門分野を簡潔に説明でき、明快な比喩を扱える人に出会うと、憧れと尊敬でぽーっとなってしまう。広辞苑で「銀河系」をひくと「太陽を含む二千億個の恒星とガスや塵などの星間物質から成る直径約十五万光年の天体」とあり、その数字に圧倒される。やさしく分りやすい信条の新明解国語辞典でも広辞苑の説明に追加して「肉眼で見える天体の大部分がこれに含まれる」とあって、そこからは「だからもうそこらじゅう全部銀河系だってことなんですっ」という開き直ったような困惑ぶりが見てとれる。数字が大きければ大きいほど、現実から遠ざかる。人間が瞬時に把握できる数は7という説があるが、それをはるかに超えた千億個などという途方もないものは数という親しみやすい存在から逸脱している。掲句のこんこんと湧く泉に例えられたことで、堅苦しく数字がひしめいていた銀河系が、途端に瑞々しい空間へと変貌し、たっぷりとした宇宙に漂う心地となる。〈起立礼着席青葉風過ぎた〉〈寂しいと言い私を蔦にせよ〉『光まみれの蜂』(2012)所収。(土肥あき子)


May 0752012

 ひといきに麦酒のみほす適齢期

                           岸ゆうこ

校生のころだったか、伊藤整の新聞小説に「初夏、ビールの美味い季節になった」とあった。「ふうん、そんなものなのか」と思った記憶があるが、いまになってみると、なるほど初夏のビールは真夏のそれよりも美味い気がする。この時期のビヤホールが、いちばん楽しい。とはいえ、ビールを飲む人の気持ちはいろいろで、みんなが楽しくしているわけではない。作者のような鬱気分で飲んでいる人もいるのだ。「適齢期」とは「結婚適齢期」のことで、最近ではほとんど聞かなくなった。この句はおそらく若き日の回想句だろうが、往時の女性は二十歳ころを過ぎると、そろそろ結婚を考えろと周囲から攻め立てられた。小津安二郎映画の若い女性などは、みなそのくちである。で、すったもんだのあげくに結婚すると、残された父親に「女の子はつまらんよ。せっかく育てたと思ったら、嫁に行っちまうんだから」などとぼやかれたりするのだから立つ瀬がない。句はそんな適齢期にあった作者が、結婚を言い立てられて、半ば自棄的に飲み慣れないビールを飲み干しちゃった図である。こんな時代も、そんなに遠い昔ではなかった。『炎環・新季語選』(2003)所載。(清水哲男)


May 0652012

 石の数が川音となり夏来る

                           大谷碧雲居

休中に川遊びをされた方も多いでしょう。掲句から、たとえば、河原で石を見るでもなくのんびり過ごしていると、川の音が夏を連れてきているようなすがすがしさを感じられます。句は、「石の数が」と字余りで始まっています。これは、数えるに余るほどの無数の石の数を表していて、中下流域の広い河原の光景でしょう。水の流れが無数の石と衝突して川音となるという句意は、説明的でもあり、即物的でもあります。また、句の中から生物を除外して、石と水という無機物の物理現象から「夏来る」を抽出する造作は、竜安寺の石庭に通じる冷徹さがあります。生命や地名といった有機的な要素を取り除き、石に水がぶつかる川音から「夏来る」と言い切る一句は、即物的であるからこそ普遍的で、どこの河原でも、どんな人でも、河原で過ごしたときにふと気づける夏の到来です。『日本大歳時記・夏』(1982・講談社)所載。(小笠原高志)




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