July 242012
冷房が眼帯の紐揺らしをり
森 篤史
花粉症の蔓延に伴ってマスク姿はすっかり見慣れたが、眼帯には依然あたりの目を引くような存在感が残っている。小中学生時代には、眼帯やギブスなどに対して奇妙な憧れがあり、冴えない生徒にスポットライトが当たるように、その白さがまぶしく見えたものだ。とはいえ、いざ自身への装着となると、視界を奪われる不自由さは、日常生活の細部に渡り、厄介きわまりない。距離感のもどかしさを他の五感が補おうと、ひりひりと敏感なっているのかもしれない。掲句の紐とは、眼帯を調整したのちの余った部分が耳の後ろに下がる。冷房のわずかな風になびく紐の感触さえ違和感を覚え、これにより、冷房も単なる空調設備ではない存在となった。身体に密着しながら、いつまでも異物を発し続ける眼帯というキーワードが、ここでも妙に魅力的に映るのだった。「古志青年部年間作品集」(2012)所載。(土肥あき子)
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