August 142012
新盆や死者みな海を歩みくる小原啄葉作者は盛岡市在住。昨年の大震災に対して「実に怖かった」のひとことが重く切ない。掲句は津波で失った命に違いないが、生命の根幹を指しているようにも思う。海から生まれ、海へと帰っていった命の数にただただ思いを馳せる。迎え火から送り火まで、盆行事には愛に溢れた実に丁寧なシナリオがある。精霊馬にも水を入れた盃を入れた水飲み桶を用意したり、お送りするときにはお土産のお団子まで持たせる。今年は縁あって福島県いわき市の「じゃんがら」に行く機会を得た。鉦や太鼓を打ち鳴らしながら新盆の家々を廻る踊り念仏である。新盆は浄土からこの世へと戻る初めての道のりのため、故人が迷うことのないよう、高々と真っ白い切子灯籠を掲げる土地もある。お盆とは、姿が見えないだけで存在はいつでもかたわらにあることを思い願うひとときであることを、あらためて胸に刻む。『黒い浪』(2012)所収。(土肥あき子) August 132012 画集見る少女さやかに遠ち見たる伍藤暉之ど August 122012 なでしこよ河原に石のやけるまで上島鬼貫上島鬼貫(うえしま・おにつら)は、「まことの外に俳諧なし」と悟り、同時代の芭蕉に深く影響を与えました。「なでしこよ」と、呼びかけの間投詞「よ」を用いて、「なでしこ」への親愛の情を率直に示しています。「河原に石のやけるまで」は、梅雨が明けた七月、八月の炎暑のなかで、花、開く姿でしょう。夏の花、なでしこは、過酷な条件の中で咲いています。図鑑によると、日本の撫子は四種類あります。カワラナデシコ・ハマナデシコ・タカネナデシコ・ミヤマナデシコ。この夏、ロンドンでも、キャプテン・宮間なでしこたちが、芝生にボールの焼けるまで、存分に活躍してくれました。沢から流れ落ちる岩清水の川は澄み、宮間の大野に大和撫子は咲き乱れました。「なでしこジャパン」。当初は、この命名に戸惑いましたが、今や立派な花です。男子チームの活躍もあっぱれです。サッカーを見ていて、これは、鬼ごっこだな、と思いました。ニッポンのこどもたちが、世界の鬼ごっこで活躍できているのをみると、夏以上に熱くなります。なでしこよ、ニンジャたちよ、ありがとう。「日本大歳時記・夏」(1982・講談社)所載。(小笠原高志)
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