AVY句

August 1782012

 質問の多き耳順の新入生

                           廣川坊太郎

十にして耳順(したが)う。論語の中の言葉。この新入生は六十歳にして入学してきた。放送大学か通信教育のスクーリングか。入学の季節は春か秋か。そんなことはどっちでもいい。六十歳の新入生が先生に質問を繰返す。質問の多さはこの新入生の熱意をあらわす。わからないことは訊くのだ。肉体年齢の先は見えている。恥もひったくれもない。四十歳を過ぎてカルチャースクールにシナリオの書き方を習いに行ったことがある。課題に四苦八苦している同じような年齢の僕らに師が言った。「不思議だ。君たちはどうしてもっと焦らないのか」。やらなければならないことが山ほどある。どれから手をつけたらいいのかもわからないほどのとてつもない量だ。やってもやっても追いつかない。六十にもなって偉いねという句ではない。この生徒の切実さが身に沁みて哀しい。この句も面白うてやがて悲しきだ。「横浜俳句鍛錬会報・2012年6月」所載。(今井 聖)




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