August 292012
ラムネ飲んでその泡のごと別れたる
和田博雄
ラムネの泡は一挙に激しく盛りあがるけれど、炭酸ゆえにたちまち消えてしまう。この場合の「別れ」はいかなる事後の別れなのかわからない。しかし、ラムネの泡のごとくあっさりしたものなのだろう。ビールの泡のごとき別れだったら、事情はちがってくる。博雄が下戸だったかどうかは知らないが、この別れは男同士ではなく、男と女の別れと解釈したほうが「ラムネ」が生きてくる。それはあまり深刻なケースではなかったのかもしれないし、逆に深刻の度を通り越していたとも考えられるけれど、それ以上に「別れ」をここで詮索する必要も意味もあるまい。このごろのラムネ瓶はプラスチック製だから、振っても音がしないのが口惜しい。博雄は吉田内閣で農林大臣や国務大臣をつとめ、のちに左派社会党の書記長をつとめたことでも知られる。俳句の上で博雄とつき合いのあった安藤しげるは「和田さんは、後に政界をスッパリ引退し、俳句三昧に遊び……」と書いている。西東三鬼の句に「ラムネ瓶太し九州の崖赤し」がある。安藤重瑠『戦渦の疵を君知るや』(2012)所載。(八木忠栄)
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