October 162012
黄落や接吻解かぬロダンの像
小滝徹矢
ロダンの「接吻」は上野の国立西洋美術館に収蔵されている。はじめ「地獄の門」に加わるはずだったが、情愛豊かで馥郁とした幸福感に包まれた作品は、男女が業火に苛まれる様相とかけ離れたため独立した作品となった。「世界でもっとも美しい」といわれるこの像をロダンは後年「美しいが何も得られなかった」と叙述している。「恋愛こそ生命の花である」と公言した作家は、アトリエで若い男女にこの通りのポーズをとらせ、恋人であったカミーユとともに制作に取り組んだ。永遠に接吻する像を完成させたのち、ロダンは妻のもとへと帰り、残されたカミーユは精神を病んでしまう。国立西洋美術館までは美しい銀杏並木があり、毎年見事な黄落を見せてくれる。天才の名を欲しいままにした芸術家の情熱と迫力を目の当たりにしたとき、人は魂を射貫かれたような感動を受ける。その喜びとも、畏怖とも言いつくせない曖昧な気持ちのまま美術館を後にすれば、途端に現実の色彩として銀杏の鮮やかな黄色が目に飛び込むのだ。その色は、行きに見た色とはきっと違って映ることだろう。『祇園囃子』(2012)所収。(土肥あき子)
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