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December 24122012

 三越の獅子も老いたりクリスマス

                           増尾信枝

京は日本橋三越本店の正面玄関にあるライオン像だ。待ち合わせ場所として多くの人に利用されている。大正三年に、三越が日本初の百貨店としてルネッサンス式鉄筋五階建ての新店舗となったとき、当時、支配人だった日比翁助のアイデアで、二頭のライオン像が設置されたのが始まりという。三越ファンには年配の女性が多く、待ち合わせている人のなかにも目立つ。まさか青銅の獅子像が老いることはないのだが、いましみじみと見つめていたら、そんな気がしてきたというわけだ。若いころには気にもならなかった獅子の年齢に思いがいったのは、むろん自らの加齢を意識しているからだ。いっしょに歳月を刻んで来たという思いが、不意にわいてきたのだろう。なにか同志のような親愛の念が兆している。歳末の買い物客で混みあう雑踏のなかで、ふと浮き上がってきたセンチメンタルなこの感情は自然である。おそらくそんな思いで、今日この獅子像を見つめている待ち人が、きっといるに違いない。『未来図歳時記』(2009)所載。(清水哲男)




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