January 082013
寒立馬雪横なぐり横なぐり
小圷健水
寒立馬(かんだちめ)は、青森県下北半島で放牧されている比較的小柄な馬である。南部馬を祖とした農耕馬で、気候と痩せた土地に順応する種として改良されてきた。「寒立」とは野生のカモシカなどが雪上を数日じっと動かぬ姿を呼ぶという。ずんぐりとした体躯に足元の安定した素朴な馬が、白い息のかたまりを吐きながら立つ群れはいかにも雄々しく、風土に適合している。しかし、どんなに厳寒のなかでも平気だと聞いても、寒風にたてがみをなぶらせ、たっぷりとしたまつげに雪を乗せている姿は、見るものに哀れを誘う。横なぐりの雪のなかで、身を隠す場所もなく、馬たちはひたすら立ち続け、春を待つのだ。同集には仔馬の姿も見られる。厳しい自然のなかの親子の情はひときわ熱く胸を打つ。〈風上の母に添ひゐる寒立馬 篠原 然〉、〈乳をのむ仔馬も雪にまみれをり 原田桂子〉「青林檎」(2012年冬号・19号)所載。(土肥あき子)
February 062015
鍋鶴の首の白さの田に暮るる
小圷健水
日本で見かける鶴は、留鳥のタンチョウ、冬鳥のマナヅル、ナベヅルなどである。ナベヅルは胴体が鍋底のように黒い為こう呼ばれ、頭上の赤は遠くからは識別しにくい程度、そして首が白。鹿児島県出水平野や山口県熊毛地域の農耕地に飛来するが、他ではまれである。迫りくる夕闇の中で鍋鶴の白い首だけが暮れなずんでいる。冬の田んぼに響くコォーォーの一鳴きが淋しい。他に<かうかうと降りくる鶴と田の鶴と><尉鶲海をはるかに天主堂><冬帽や白き扉の懺悔室>などあり。「俳句」(2013年2月号)所載。(藤嶋 務)
May 052015
乗り継いでバスや都電や子供の日
小圷健水
本日こどもの日。古来より男児の健全な成長を祝う端午の節句だったが、1948年に「こどもの人格を重んじ、幸福をはかるとともに、母に感謝する日」として国民の祝日となった。掲句は目的地に行く手段というより、乗り物好きの子供へのサービスのように思われる。赤ん坊や子供の乗りもの好きは、絵本や玩具に、あらゆる乗りものグッズが充実していることに表れている。わけても男児にその傾向が強く、プラレールに夢中になり、ミニカーを集め、なかにはすべての電車の名前をそらんじてしまう子もいるほどだ。それは鮮やかな色やかたち、規則的な動きなどに新鮮な刺激を受けていると考えられている。わが子がバスや都電にはずむように乗り込む姿に、父はふと遠い記憶を重ねる。乗りもの好きをさかのぼれば、それは抱っこや肩車から始まっていることに気づき、いっそう愛おしく思われるのだ。句集には〈大皿に向きを揃へて柏餅〉や〈ざつくりと二つに切つて菖蒲風呂〉も。子供の日の香り立つような時間がおだやかに描かれる。『六丁目』(2015)所収。(土肥あき子)
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