January 132013
立膝の妻の爪切る女正月
薗田よしみ
女正月は、小正月ともいい、女たちが、家事の一切から解放される習わしがありました。かつて、ガスコンロも水道の蛇口もなかった時代の正月は、来客をもてなすこともたいへんで、松飾を取り、鏡開きを終えた十五日頃になって、女たちはようやくひと息つけたわけです。掲句にはその気分があります。一読して、谷崎潤一郎のようなフェミニストの作かと思いましたが、作者は女性と知り、これを女性から男性たちへの一提言として読んでみますと、私なんぞはせめて 年に一度、妻の足指の爪を爪切りで切ってあげるべきだなあと、素直に賛同致します。妻が立膝をついて上方にすわり、夫はそのお御足を下方でお手入れするこの逆転の構図がおかしく、同時に、春琴と佐助の関係のような、ぞくりとするものもあります。ところで、日本には三種類の暦があります。現在使っている太陽暦(新暦)。明治六年以前まで使っていた太陰暦(旧暦)。そして、太陰暦が中国から入って来る前にあった太古の暦です。女正月は、この太古の暦の正月で、年の始まりも月の始まりの一日も、満月から始まっていました。無文字社会の古代カレンダーは、月の満ち欠けでした。「現代俳句歳時記・新年」(2004・学研)所載。(小笠原高志)
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